2012年4月4日水曜日

黒龍の唾20120403

黒龍の唾(前編)           
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○ ナレーション 
 「ギリシア、黄金に満ちたミケーネ文明
 は、北部民族のドーリア人と呼ばれるギリ
 シア人の大南下によって突如滅ぼされる。
 その後400年にわたって文字のない暗黒時代
 が続き、紀元前750年、民族と英雄の歴史は
 イリアスとオデッセウスの英雄物語として
 再生する。ゲルマン民族の大移動の後には
 ニーベルンゲンの物語、古事記にはヤマト
 タケル、神武天皇の英雄物語がある。

○ 都会の化粧品会社のビル。地下の画廊。
画廊の隅に置いてある椅子に腰掛けているワンピースの加藤久美子(24)が音楽にあわせて動くモチーフを眺めている。
久美子「こんなリズムの無い環境音楽を一日
 中聴いてたら眠くなるよねー」
三十歳ぐらいの女性・叶が肩をたたいて
女「もういいわよ。飛行機なんでしょ。こん
 な梅雨時に大変ね」
久美子「叶さんはいつやられたんですか?」
女「桜の頃、飯倉の大名組屋敷跡の発掘よ。
 加藤さんはどこ?」
久美子「西日本市です」
忙しく受付からバックを取り出す久美子。
久美子「しかも、上司が実習指導官なんです」
女「へーめずらしい」
久美子のモノローグ(以下M)「市立歴史博
 物館なのにいつもいなくて一年経っても二、
 三回しか見かけた事がないし」

○ 飛行機の中
久美子がコピーされたファイルを読んで
る。全く興味が無く寝てしまう。
○ 手元のファイルのアップインサート
大和言葉の語幹(上代古語の分析、追跡)

○ 西日本空港 到着ロビー出口前路上
ターミナル出口にレンタカーを停めてドアを開け立っている男・主藤如月(37)。ワンピースの久美子がサンダルで大股で出てくる。主藤を見つけるとバッグで前を隠すように小走りに駆け寄ってくる。
久美子「よろしくお願いいたします」

○ 環境音楽のCDが鳴る自動車内(夕暮れ)
車が全く走っていない高速道路。街灯もなくまるでタイムマシンのトンネルの様。
久美子のM「これからどこへ行くのかしら?」
主藤「机のファイル読んでくれましたか?」
久美子「ハイ」
久美子のM「うーん、寝ちゃって読んでねー。
 きっとどこに行くかも書いてあったのよね」
高速をようやく下りて川沿いに進める。

○ 川沿いの道、旅館がすぐ横
車を降り夕映えの川中の島の公園を眺め
主藤「鵜飼が8時からなので、あと15分で
 汗を流して着替えて降りてきてください」
久美子「鵜飼?ですか?」
主藤「ええ」
久美子「着替えなきゃだめですか?特にジャ
 ージなんか用意するように言われてなかっ
 たんでデニムしか持ってきてないんですが」
主藤「いえ、どちらでもいいですが。ただそ
 のドレスでは窮屈かと思って」
久美子「すみません。今日はギャラリーの監
 視バイト終わってそのまま来ちゃったので」 
  携帯が鳴って、でる主藤。

○ 露天風呂つきの部屋
久美子がジーンズで風呂から出ると部屋中に浴衣を広げている旅館の制服の老婆。
老婆「お時間が無いのでお持ちするようにと 
 仰せつかりまして。どちらになさいます?」
久美子「じゃあ、その鳥の子色の、流水紋に
 萩の柄のと、薄い桃色の紗織りの博多帯を」
老婆「お詳しいですね」
久美子「ええ…」
久美子のM「そうよこんなとこで温泉つかっ
 てる場合じゃないのよ、早くこのフィール
 ド実習片付けて単位とらないと。鵜飼船に
 浴衣で乗れって、真っ暗な中で何をさせら
 れるのかしら」

○ 温泉旅館ロビー
主藤が着替えず携帯で話している。久美子が隣のエレベーターから降りて観光協会の団扇で前を隠すように小走りでくる。
久美子のM「こんなんで何の調査をするの?」
主藤は携帯がようやく終わる。
×   ×   ×
主藤が浴衣に着替えてくると久美子が売店で緋(あけ)色の櫛を買って、上げた黒髪に櫛を差し夜会巻にして留めたとこ。
久美子のM「いいわよ。何すればいいの?」

○ 4人用の鵜飼の船(同夜)
主藤と久美子の貸切。周りは暗くなって鵜飼の篝(かがり)火に向かって船頭が船を進めていく。一人の乗合船の観光客が鵜が捕った鮎を受け取ろうと中腰になって片脚を船の外に掛け手を伸ばす。
主藤「さあ」
主藤も腰を上げ、中腰になって袖をまくる。頭を抱える久美子。ため息をついて、久美子も中腰になって袖と裾をまくって片足を船の外に出そうとする。
久美子のM「さあ、どうぞ。その鮎をつかめ
 ってか?いいわよ。覚悟はできたわ。こん
 なのがフィールド実習なの?」
主藤「おつかれさま、どうぞ」
久美子「はあ?」
主藤はビールを持っていて酌をしようとするだけ。赤面する久美子。

○ タイトル『ドーリア人の侵入』
『レポート1:黒龍の唾(つば)』

○ 鵜飼の船(鵜飼から遠ざかり)
主藤、久美子「乾杯」
老婆が乗り込み鮎を焼く炭の香り。
主藤「いきなりこんなとこで鮎のつかみ取り
 はないですよ。鵜飼は見物しかできません」
久美子も鮎の背中にかぶりつき川の香り。
団扇で大きく扇ぎながら光を眺めてると、
久美子のM「ちょっとごめんなさい。なんだ
 かはっきりしないのよ。だって、銀座から
 車も街灯もない真っ暗なタイムトンネルの
 ホースのような高速ををくぐり抜けると一
 気にそこが別世界の夕暮れの亀山公園。露
 天風呂と貸切の鵜飼の船だったのよ」
久美子が音も無くビールを半分一気に飲み干し、うまいこと袖を持ってビールを主藤にだけついで、ビンを置く。
主藤「冷酒でいいですか」
久美子は恥ずかしそうにうなづく。
久美子「いつからフィール実習なんですか?」
主藤「それは明日からで、これはいわゆる学
 会の余禄ってやつです」」
主藤は汗がにじむので襟をあけてしまうが、久美子は表情を変えず主藤も見ずに主藤を団扇でゆっくり扇ぎだした。
主藤M「それじゃあ自分に風がいかんでしょ」
恥ずかしくなって襟を合わせる主藤。
久美子のM「副館長いいとこあるじゃない。
 貸切の船の上で焼きたての鮎よ。これには
 他のどんな何とかクルーズも及ばないわね」

○ 温泉旅館部屋
ゆかたの主藤と久美子。
久美子「主藤さん、お電話なさってて入れな
 かったでしょ。お風呂お先にどうぞ」

○ 温泉旅館 部屋付きの露天風呂
主藤が湯船から出る。川中の公園は真っ暗だが蛍が二群に分かれ点滅している。
久美子「ごめんなさい、いいかしら」
小声で洗面用の小さなタオルで前だけ隠して久美子が伏目です早く入ってくる。
久美子「すみません。勝手に。人魂みたいな
 光が二つ、ついたり消えたり飛んでますよ」
と、掛け湯(下湯)をしながら話す。
主藤「蛍だよ。交尾のときオスは、ああやっ
 て二群に分かれシンクロして光るそうだよ」
久美子「これが?」
  しばらく立てひざをして、タオルで前を隠し蛍を見つめている久美子。
久美子「すぐ終わるんで髪洗っていいですか」
久美子は背を向け洗い出す。後姿のみ。それを目にして主藤は湯船につかる。
久美子が髪を洗い終えて、タオルを湯船の外に置き、手だけで適当に見えないように隠して湯船にすっと入ってくる。
久美子「蛍とわかると何ともないわ、こんな
 の初めて見ました。うーん良いお湯ですね」
主藤「これからまた西日本飛行場の近くのホ
 テルに戻って、明日からフィールドワーク
 なので十分疲れをとっといてください」
久美子のM「えっ戻るの?もう十時すぎよ」

○ 真っ暗な高速を走る車
車を運転する主藤と眠りそうな久美子。
久美子のM「このまま眠って起きたら銀座の
 監視席だったりするのかしら」

○ 城山の中腹のホテルの駐車場(同深夜)
  車が別のホテルの駐車場に停まる。

○ 久美子の部屋(翌朝)
目覚めてカーテンを開ける久美子。見渡すと天満宮は霧に沈み博物館のエレベーターのみ、霧から頭を出している。

○ 主藤の部屋(同時刻)
電話音。出かける姿の主藤が電話にでる。
久美子から「霧が目の下にいっぱいですよ」
主藤「ええ、見てました。もう起きてるなら
 今すぐ出られますか」
久美子「はい」

○ 久美子の部屋の前
主藤のノックで久美子がブラウスにジーンズだけで銀縁眼鏡を掛けて出てくる。
主藤「(慌てて)じゃあ10分後にロビーで」
久美子「すみません、洗顔してすぐ行きます」

○ ホテルのある城山頂上の展望台
久美子と主藤が登りきって見下ろす。眼下は霧で覆われている。さらに霧が麓からどんどん湧きだすが、堤防のような水城に堰き止められ、その堤防の切れ目から日本海方向に溢れ出ようとしている。
久美子のM「なんなのこの景色は?一体何?」
久美子「ダムから霧が溢れ出そうとしてます」
主藤「あのダムが水城(みずき)ですよ」
久美子「ろくろくみず(663年)に白村江(は
 くすきのえ)のですか?」
主藤「よく知ってますね。663年日本が新羅に
 負けて逆襲に備えた堤防状の防御要塞です」
久美子「でも水城が切れちゃって切れ目から
 霧があふれ出しそうです」
主藤「高速道路を通すために切った場所です」
久美子「ああ、霧が動いてあふれ出ちゃう」
主藤「この山自体が大野城といって、その白
 村江の後に造られた城で、霧に守られるよ
 うに覆われてるところが政庁跡です」
久美子「霧が生き物のように流れ出てますよ」
主藤は三脚を据えてビデオを撮っている。霧は生き物のように動き水城の切れ目から流れ出ていく。まるで龍の息の様。
久美子「日本にもこんな景色があったなんて」
驚く久美子、全く表情を変えない主藤。
久美子「あのぉ、これってメジャーですか?」
主藤「さあ、有名かどうかは知りませんが、
 この水城ができてすぐ後に、この霧を歌っ
 た人がいてその時から霧はもうここにあっ
 て溜め息のように動いてたっていってます」
久美子「えー、じゃあ1400年もの間、知られて
 いるってことですか?」
主藤「はい」
久美子のM「嘘でしょ」
久美子が『大野城、霧、ため息』でググると
○ スマホ画面インサート
 『大野山 霧立ち渡る わが嘆く
 息嘯(おきそ)の風に 霧たちわたる』
 『大野山に霧がたちわたっている。私が、
 亡き妻を思って嘆く溜息のように霧がたち
 わたっている』万葉集巻五 山上憶良762年

○ (もどって)城跡展望台
陽が高くなるにつれて霧が晴れ展望台のテーブルにはねずみ色の風呂敷がほどいてあって茶碗にヒツマブシがのっている。
主藤「夕べの宿でつめてもらったんですが」
風呂敷をテーブルクロスの様に広げる。
久美子のM「舛花(ますはな)色じゃない」
   ×   ×   ×
食べ終わって見下ろす久美子と主藤。
主藤「さあ、では、宿を引き払って実習です」

○ 弥生館横の公園(同日 9時)
主藤と久美子。住宅街の古い保育園のような建物(弥生館)。集落模型のある横の直径100メートル程の円形の公園に入る。
主藤「ここは日本で初めて縄文の土器と弥生
 の土器が同じ地層から見つかった場所です」
久美子のM「何をいきなり言ってるの?」
主藤「縄文時代に既に稲作が行われていたこ
 とを示していることでも有名な遺跡です」
久美子のM「はあ?稲作?」
主藤「半島からの渡来人たちが定住しその後
 先住民の縄文人を従え混血が生じ、言葉も
 半島の言葉と縄文の言葉が混じって、最初
 に日本人と日本語が誕生したのはきっとこ
 の付近一帯に違いないでしょう」
久美子のM「混血って、日本人ってずっと日
 本に住んでたんじゃないの?大体稲作って
 縄文時代にはなかったの?」
主藤「その上陸から約200年ほどの間で人口は
 爆発的に増加し、あぶれた人々は東へ東へ
 と向かっていきました。日本中に広がって
 いったんです。その痕跡を探して侵入の道
 筋を明らかにするのがこの実習の目的です」
久美子のM「こんなおんぼろ資料が日本の始
 まりでいいの?どうしてもここからでは東
 へ向かい日本を覆いつくす民族移動の鳥瞰
 図上の矢印は頭の中に浮かびません」
久美子「レポートの書き出しもここですか?」
主藤「そうです」
久美子のM「どうするのこれから?夕べも寝
 ちゃって題名しか覚えてないんですけど」
○ ファイルのアップインサート
 『大和言葉の語幹・上代古語の分析、追跡』

○ カルスト地形の中を走り抜ける車
久美子と主藤、車の中。
久美子「九州にも秋吉台みたいなところがあ
 るのね、あら通り過ぎちゃって」
どんどん山に入っていく。
久美子「もーどこまで行くのよ?」
こっそりファイルを覗く久美子。
○ ファイルインサート
 『6月22日宿泊 S市 S楼』 
今夜の宿に目がいく。フグで有名な街。
久美子「夕べの調子なら今夜はフグよねっ!」

○ 田んぼの脇の道路の路側帯
車が三方が山に囲まれた農村に停まる。
主藤「渡来人の侵入でおそらく、縄文人の男
 性は殺されて女性は食事や採集の担い手と
 して奴隷となり混血が進んだでしょう。混
 血してできた新しい単語の語幹はヤマトコ
 トバとして日本中を覆い尽くして、混血児
 である日本人の大移動の経路として今でも
 地名などに残っています。その痕跡をたど
 っていくんです」
久美子のM「何千年も残ってる訳無いじゃん」
主藤「もちろん途絶もあるわけですが…」
  察したように言い地図を広げ指差す主藤。
○ 地図インサート
地図上ほとんど矢印が書き込まれているが、現在地のみ矢印が空白になっている。
主藤「このように連続性の途絶している点を
 終末点といってこれが生じる大きな理由は
 ①河川山脈海峡などの地理的条件
 ②民族移動の停止(疫病、対抗する文明)
 ③時代経年による消失、等があります」
ファイルを閉じる主藤。
主藤「今ここにいる場所がまさに終末点と疑
 われるわけですが今回の調査の目的はこの
 終末点の語幹の有無を確認することです」
久美子「確認できなかったら?」
主藤「このひとつ手前が終末点だったという
 だけのことです」
久美子のM「超地味。どうでもいいじゃん」
久美子「どうしてここは残ってるんですか」
主藤「さあ?なぜかここはまだなんですが非
 常に狭いので実習には最適だと思います」

○ 田んぼの横のアスファルトの照り返し
久美子と主藤が照り返しの中降り立つ。
主藤「これだけ三方を山に囲まれていたら物
 理的な停止には間違いないでしょう」
真新しい家々。道路の横にはコンクリートの水路。離れてついていく久美子。
久美子のM「こんなとこに痕跡が見つかるの?
 私にはこの実習の内容が全く見えません」
主藤「さっきの矢印はアキという言葉の追跡
 なんです。だから、この集落のどこかにあ
 るアキが終末点であると考えられるんです
 が、アキの語幹が見つからないんです。荒
 山(アラヤマ)神社ならあるんですが」
久美子「あきやまがあらやまに訛ったんじゃ
 ないんですか?」
主藤「まず、耕地の名を聞く事から始めます」
主藤が農地で働く老人の元に歩み寄って、
主藤「教育長さんから紹介されてきました」
忙しい中一瞬手を休めにこやかに応じる老人A。話はものの数分で済んでしまう。
主藤「農地に“アキ”は見つかりませんね」
  歩いて次の家を目指す二人。
久美子「これがフィールドワーク?」
別の玄関先で老婆Aと話すが同じ。これで終わりかと思った時主藤がたずねた。
主藤「この明治時代の地図にある神社の持ち
 主のお宅はどちらでしょう」
  老婆Aが横の林を指しながら
老婆A「戦争後までわたしの先輩とお祖父さ
 んが家と一緒に神社も守っていましたが」
主藤「史蔵さんですね。祖父のお名前は具和
 さんですか?」
老婆A「さあ?どうだったでしょうか。先輩
 も戦争後病死されて家は死に絶え、今は雑
 木林です。確かボッコクロだったんですよ」
久美子と主藤。次の家に向い歩きながら、
久美子「ボッコクレって?」
主藤「伝染病でしょう」
久美子「伝染病ってベンハーにでてくる?」

○ 神社の鳥居の横の家。(1950年夏夕暮れ)
由利具和(89)衰弱して床に伏せている
が眼光は確か。枕元に手をつけていない茶碗。人が出て行った気配。入れ替わりに食事を持ってきた同じ集落の娘・愛祢(29)が暗い玄関から勝手に入っていく。
愛祢「おるとー」
愛祢は手をつけてない茶碗を見るが、なにも言わず新しい食事と取り替え、急須からお茶を入れ仏壇にも供える。
具和「愛祢、ありがとう。だが、もうここに
 は来ちゃいかん」
愛祢「…」
具和「いいか、史蔵を待っていても無駄だ」
愛祢「えっ?」
具和「史蔵は戦争じゃなくて、伝染病で死ん
 でいる。私が50年前の清との戦争で北京か
 ら持ち帰ってあれの両親も兄姉も死んでい
 る。史蔵だけには移らんようにしてたつも
 りだったが。由利の家はこの私で終わりだ」
愛祢「じいちゃん」
具和「史蔵のことは忘れてお前は嫁に行け。
 おまえの器量なら良縁も望みのままだろう」
愛祢の髪に触れ、祝詞をあげ始める具和。

具和「(提出後このときほんとは具和が櫛を愛祢掘り出したのを知っていて、櫛がもしかしたら史蔵の災いをとくかもと思う★★★★★★)
具和「アラヤマの…」
愛祢「この祝詞、覚えるなって言っていた…」

○ この村の愛祢の家(同夜)
黙々と機織をしている愛祢。隣室に父母。
母親「いつまで機織続けるつもりなの?」
愛祢「(聞こえない小声で)アラヤマの…」
母親「史蔵さん、亡くなってたそうじゃない」

○ 神社の祠(ほこら)の中(夏祭りの夜)
史蔵(5)と浴衣の愛祢(5)。御神体に近づく二人。神棚が崩れご神体の動物の頭蓋骨が落ちる。牙で傷つく史蔵の腿。子供の泣き声にかけつける具和。

○ 神社の祠(祭りの数日後)
社の横を流れる大きなヤマメのいる川では傷が癒えた史蔵(5)と愛祢(5)が遊ぶ。史蔵の腿に傷が生々しい。祝詞を上げると虎の頭蓋骨を叩き割る具和。川から上がって見にきている子供二人。
具和「川で遊んでなさい。史蔵、この祝詞は
 覚えてはならんのだ」
   ×   ×   ×
社の裏に虎の骨と一緒に櫛を埋める具和。
具和「この神社はもう終わりでよかろ」
  いつの間にかのぞいて見ている子供二人。
 
○ 温泉場・引き揚げ支援施設(機織の翌朝)
引き揚げ支援会のタスキを掛け髪を上げて櫛を押し込むと前かがみで引揚者の足を洗い始める愛祢(29)。周りが華やぐ。
愛祢「ご苦労だったでしょう」
うつむいたまま足を洗う愛祢の髪をまとめた櫛と髪形に気づいて小声で言う男。
史蔵「離れろ、俺の病気はうつるんだ」
愛祢「はい?」
足を引っ込める帽子の男に尋ねる。
愛祢「もしや由利史蔵さんという人をご存じ
 ないですか?昨年まで北京にたんですが」
愛祢も足の傷に気づく
愛祢「史蔵さん?」
男(史蔵)は裸足で逃げる。追う愛祢。人に紛れて諦める愛祢。物陰から史蔵が、
史蔵「おれは伝染病で死んだんだ。愛祢はい
 い男を見つけて結婚するんだ」
不意に白衣の男二人に後ろから肩をたたかれ声を掛けられ驚いて振り向く史蔵。

○ 神社(同年(60年前 1950年) 大晦日)
村人たちと愛祢(29)と愛祢の父。雪が舞う中、潰され廃材となり大晦日のお札と一緒に燃え上がる神社が養魚池に映る。

○ 郊外の療養所(翌日 正月元旦)
個室に入れられ鍵を掛けられ、ひとり、史蔵が正月の雑煮の病院食を食べている。

○ 集落の家(三件目)(現在)
別の玄関先で、老婆Bと主藤と久美子。
主藤「神社のお祖父さんも伝染病でしたか?」
老婆B「もう何十年も前のことですよ」
と、声を荒げる
主藤「いえ一家全員が伝染病だったのかと?」
老婆B「こんな風に山に囲まれてるからって、
 由利さんとこ以来60年間、誰もボッコレて
 ないんだから、もう誰にもうつらないわよ」
蚊が顔の前に来て追い払おうとするが逃
げないので体ごとよける久美子。
老婆B「大丈夫よ、蚊からなんてうつらない
 わよ。由利さんちだってきれいに焼き払っ
 たんですから。あんたたちも前にもそうや
 って聞くだけ聞いて逃げ帰ったでしょうに」
引込んでいく老婆B。なぜか藪蚊が二人に集ってきて気味が悪い。
主藤「こう取り付くしまが無くては皆、引き
 上げるよ。空白で残ってる訳だ。川の右側
 の集落は5軒だからあと2軒大丈夫ですか」
久美子「はい」
すずしい顔で上腕と首筋の蚊をたたいて殺す久美子。目を丸くしている主藤に、
久美子「蚊なんかからじゃ移らないんでしょ」
主藤「君は伝染病が怖くはないんですか?」
久美子「今でも移るんですか?」
主藤「何十年も前の物が移るはずありません」
久美子のM「なら早く行こうよ」
主藤のM「ふーん」
久美子「どうして神社の事を聞いたんですか」
主藤「神社や山ノ神はその地勢を束ねる場所
 にあり、谷頭水源であったり昔からの遺跡
 の上にあったりする事が多いんです。そし
 てその神社を守る家は集落でも最も古い家
 で、文化風習を伝えている事があるんです」
久美子「じゃあ、残念でしたね途絶えちゃて
 るなんて。でもどうして具和さんのことま
 で知っていたんですか?」
主藤「来る前に戸籍で調べてたんです」
集落の谷の一番上流からあたって無駄骨で、5軒目の家まで降りてくる。谷川のコンクリートで整備された養魚場に魚の群れが集ってる。主藤たちの足音に驚いて飛び込んだ蛙を食べようと群がる大ヤマメ。久美子が驚いて飛び石から靴を踏み外し水の中に踝まで浸かってしまう。
久美子のM「何これピラニアじゃないの?」
主藤「人影で餌やりと思って集ったんでしょ」
久美子「なんでこんなに大きくて貪欲なんで
 すか?気味悪いですね」
主藤「受精時に温度などのストレスを加える
 と三倍体といって大きくなるんだそうで、
 ここのはなぜか戦前からあるんだそうです」

○ 神社の鳥居の横の家(1950年 夏夕暮れ)
愛祢(29)と衰弱して寝てる具和(89)。
具和「アラヤマの…」
愛祢「この祝詞…私が伝えろって事なの?」
具和「愛祢、史蔵のことは忘れて、嫁に行け。
 それからヤマメのこと聞かれたなら受精12
 分後だ…そしてその後24分間24度だ」
愛祢「?」
具和「お前たちが掘り出していた櫛は呪いをとくかもしれない。が、どうかわからん★★★★★★提出後」
○ この村の愛祢の家(同夜)
黙々と機織をしている愛祢。隣室に父母。
母親「史蔵さん亡くなってたそうじゃない?」
父親「じいさんも、もうもたんだろう。あの
 大ヤマメはどうするのか誰にも何とも言わ
 ん。愛祢、ヤマメのこと何か聞いてるか?」

○(もどって)田んぼの横の照り返し 
久美子のM「三倍も大きくなるの?ほんとに
 食べられるかと思ったわよ」
濡れた靴が音を立て、うんざりの久美子。
主藤「もう少しです、あのお家で最後です」
久美子のM「ちっ、顔に出ちゃったかしら」
谷川を挟み右上が谷頭集落、左下が別の集落。主藤が左下の一軒は通り過ぎ、最後の右上の一軒に向かっていく。川を隔てた左下の家の門に久美子が目を留める。
久美子「このうちは古いわよ」
通り過ぎようとする主藤を呼ぶ久美子。
久美子「ピンポンしなさいよ」
通り過ぎ右上の家で話し始める主藤。
久美子「お話聞いといたほうがいいですよ」
元気の無い久美子の声。聞こえない主藤。
久美子「もーしょうがない」
魚の群れる谷川のを怖がりながら渡る。

○ 雨戸の締め切られた家の門の前
久美子がピンポンするが人の気配が無い。
久美子「すみません」
久美子の声に主藤が一瞬振り返る。
主藤のM「その集落には話が通ってないよ」
久美子「ごめんください」
隣の家の生垣の隙間から畑仕事の格好の婦人が現れる。猛暑の照り返しの中。
婦人「どちらさま?」
久美子のM「大体わたしの論文は近代ヨーロ
 ッパの新古典主義絵画なのにどーしてこん
 なとこで川にはまってなきゃいけないのよ」
婦人「この家は途絶えたんだけれど、その途
 絶えた当主の妹さんが、お家が途絶えると
 きに神社も実家もなくなって帰るとこがな
 いって悲しんでたわ」
久美子「はあ、その妹さんは今どちらに?」
久美子のM「銀座の画廊の人なんか飯倉の発
 掘で終わりにしたっていうじゃないのよ。
 大体どうして近代ヨーロッパの教授が弥生
 文化の市立博物館や実習を紹介するのよ?」
婦人「街に嫁いだんだけど今は特養にいるそ
 うよ。会っても認知症で何も聞けないわよ」
久美子「そちらの連絡先よろしいですか?」
婦人「街で鹿納さんといえば誰でもご存知よ」
久美子「どうもありがとうございました…」
バテバテで、朦朧とした久美子。
久美子「門に飾ってある黒と金色の櫛を頂だ
 いしていいでしょうか?代わりにこれ」
ポケットから夕べの緋色の櫛を差し出す。
婦人「新しい櫛は魔よけにはならないのよ」
  櫛をポケットにしまう久美子。
婦人「この櫛、前からあったかしら?特養に
 行くのならもってってあげて。でも判らな
 いわね。去年のお祭りの時なんか一人でこ
 こまで徘徊してきちゃって大騒ぎだったわ」

○ 特養(昨年夏)
痴呆の進んでいる愛祢。療法士が白い布に包まれた金色と黒の櫛が食べかけの菓子の袋に入っているのを見つけて、
作業療法士「今日は持ち物に名前を書こうね」
一瞬、目に輝きが戻る『鹿納愛祢』の名前を鏡や櫛に彫っている愛祢。

○ 愛祢の実家の門の前(昨年夏)
祭囃子が遠くで聞こえる中、閉じられている門に石ころで櫛を打ち付ける愛祢。櫛に鹿納愛祢の名前。打ちつけ終わると同時に隣の婦人と街の鹿納の嫁が現れる。
隣の婦人「タカちゃん、こっちよ」
嫁(タカ)「こんなとこまで一人で来て。で
 もこんなしっかりした顔つきは久しぶりよ」
愛祢のM「これが最後の正気かもしれない」
迎えの特養の車に乗る涙目の愛祢。

○ 愛祢の実家の門の前(昨年夏)
養魚場の餌やりに来た史蔵(88)が打ちつけられた櫛に見入って安心した様子。
史蔵「鹿納の家にい(嫁)ったのか」

○ 神社の横の家(85年前 夏)
史蔵(5)と浴衣に稚児髷の愛祢(5)。
夏祭り。裃の具和(65)、妻・杏姫(56)。
いつまでも稚児髷で史蔵と遊んでるのをみて杏姫が愛祢を呼んで髪をすき直す。
杏姫「あいねちゃんはきっと美人になる。ほ
 らこうするともっときれいよ」
竹串で髪を止める。声にならない史蔵。

○ 神社の祠(ほこら)の中(同日)
史蔵(5)と浴衣で夜会巻の愛祢。夏祭りで開放してある祠の神棚の櫛を見つけ、
史蔵「よーし、待ってろ愛祢」
黒金の櫛を取ろうとして神棚から落ちてくる骸骨の牙で傷つく史蔵の腿。物音と愛祢の泣き声に駆けつける具和。
具和「30年以上もたっとるのにやはりこれに
 関わっちゃなんないのか」

○ 天津(清国)の港湾施設ビル屋上
(日清戦争開戦前夜117年前1894年3月早春)
開戦準備で船の数を探っている平服の具和(33)。不意に至近距離から足を撃たれ落下し、頭を打って気絶。

○ 北京の隔離病棟(数日後)
ベッドの上で奇声に目覚める具和(33)。頭と足に包帯。大部屋の奥にドアの無い小部屋があって異様な臭い。奇声が聞こえる。隣のベッドに白人の男とベッドの間に立っている看護婦・杏姫(24)。
杏姫「ご気分は?頭が痛くはないですか?」
隣のベッドの白人男「ここの御主様(おぬし
 さん)の斎黒主(さいくろす)さまの声さ」
具和「ここは?」
隣の男「お前はこの伝染病の疑いらしいが、
 ここは監獄よりも脱出困難な隔離病棟だ」

○ 隔離病棟小部屋の前(日替わり)
頭の包帯が取れた具和が真っ暗な小部屋に踏み入ると奇声。隣の男と杏姫が来る。
杏姫「誰か御主さんを解放してあげて」
隣の男「御主さんは清朝皇帝の離宮、円明園
 から俺達が持ち出した宝を守るよういいつ
 かったまま、病状が悪化して、耳も、残り
 の片目もだめになっちまった。最後に残っ
 たのは口の感覚だけで、誰の命令も聞けな
 くなって30年近くああやって口に櫛をくわ
 え壁に当てて、口の振動で誰かが近づくと
 大声を上げて宝を守ってるのさ」
杏姫「守るものが無くなれば御主さんは自
 由になれるし宝も清に戻す事ができるわ」
隣の男「一日一回、夕食の一分間だけ口から
 櫛をはずすが、うっかり近づけば膿だらけ
 の体で噛み付いてくる」
史蔵が隣の男の腕の噛み傷に気づく。
隣の男「この病気は感染しにくいって医者は
 言いやがるが…」

○ 北京の隔離病棟(数日後夕方)
大騒ぎの病棟。兵隊が探し憲兵が怒鳴る。
兵隊A「院内のどこにもいません」
憲兵「足を撃たれてるんだ。遠くには行けん」
憲兵が医者に詰め寄る。
憲兵「やつは伝染病なだけじゃなくて日本の
 間諜なんだぞ」
医者「ここは隔離病棟なので下手な監獄や、
 軍病院よりも抜け出すのは難しいんです」
憲兵「いいから、見つけ出せ。わざわざ天津
 から運んできた甲斐がないじゃないか」
御主様の横に立ってじっとしている具和。

○ 北京の隔離病棟(翌日)
食事になって櫛を口からはずす御主。わずか数十㎝横に立っている史蔵が、堂々と斎黒主の尻の下にある箱の中から、黒い石を持ち出し部屋から這い出る。
杏姫「お願い、櫛も奪ってあげて」
史蔵「?」
杏姫「櫛が残っている限り、斎黒主さんは永
 遠に開放されないわ」
引き返して櫛を取って出てくる具和。
杏姫の手引きで病棟を抜け出ていく。
看護婦「一日中立ちっぱなしで足は大丈夫?」
史蔵「大丈夫。それより便所に行かせてくれ」
杏姫「もう今日は院内の捜索してないので、
 慌てなくてもいいわ。さあこっちよ」
  人目を気にして看護帽を脱ぎ窓から階段室へ降りる杏姫。後を付いていく具和。
具和「花月巻きじゃないか。看護婦さん、あ
 んた日本人なのか?」

○ 北京の日本公使館(同夜)
コートを羽織った具和と杏姫。暗闇に紛れ勝手知ったる塀の隙間を通り抜ける。

○ 神社の祠(ほこら) (日替わり陽春)
帰国した具和が黒い石と歯形がついた櫛をご神体の頭蓋骨の顎の下に置く。物音に気づいて出て行く具和。村長が来る。
村長「大本営からお呼びとは村の誉れだ」
具和「足が治るまで呉の海軍病院に行って養
 生するだけですよ」
村長「この桜んごた武運長久。そいちゃり戦
 が終わったらぜひぜひ鹿納の家に寄ってな」

○ 神社の祠(ほこら)の中(35年後の夏祭)
開放してある祠。頭蓋骨の下には金色と黒に塗り直された櫛のみ。黒い石はない。

○ 神社の横の家(同夜)
史蔵(5)と浴衣に稚児髷の愛祢(5)。
夏祭り。裃の具和(65)。妻・杏姫(56)。
杏姫が愛祢を呼んで髪をすき直す。
杏姫「あいねちゃんはきっと美人になる。ほ
 ら。これおばあちゃんが東京で考えたのよ」
竹串で髪を止める。見とれる史蔵。

○ 神社の祠(ほこら)の中(同日)
史蔵(5)と夜会巻きの愛祢(5)。夏祭りで開放してある祠。御神体の頭蓋骨の下に塗り直された黒金の櫛があるのに気付き取ろうとして牙で傷つく史蔵の腿。愛祢の泣き声に駆けつける具和(65)。
具和「30年以上もたっとるのにやはりこれに
 関わっちゃなんないのか」

○ 神社の祠(その数日後)
境内の横の川で遊ぶ二人。史蔵の腿に傷。祝詞を上げると虎の頭蓋骨を叩き割る具和。川から上がって見に来る子供二人。
具和「史蔵、この祝詞は聞いてはならんのだ」
社の裏に虎の骨と一緒に櫛を埋める具和。いつの間にかこっそり見ている二人。
具和「この神社はもう終わりでよかろう。龍
 の唾に触れた私には何もおこらないのに、
 私の触るものは皆消えていってしまうのか」

○(具和の回想)32年前・北京の隔離病棟
  具和(33)と隣のベッドの白人男。
隣の男「龍の唾は人を溶かすそうだが、あの
 石ころは北京の守り、別名黒龍の唾って呼
 ばれ、触れる者の姿を消すのだそうだ」
具和「大丈夫、ちゃんと見えてますよ」
  隣の男が腕の傷を見せながら。
隣の男「一生隔離病棟から抜け出せないんじ
 ゃ、世の中から見えてないのと同じさ」

○ 集落の家(最後の一軒)玄関先(現在)
  玄関先で老人Bと主藤。久美子が来る。
老人B「夕べも市長まで電話させやがったっ
 て誰も神社の焼け跡には行きたくないよ」
主藤「お手数かけまして、すみませんでした」
頭を下げる。久美子に車の鍵を渡して、
主藤「最後のお宅もだめでした。私は川左の
 集落を回りますので車に戻っててください」
久美子「これで終末点じゃないんですか?」 
主藤「今ここで終わりにしたら悪い意味で私
 達が作った終末点だ。谷頭水源に焼き払わ
 れた神社。ここに何もないはずがないです」
久美子のM「しょーがねー」
ふらふらの久美子が主藤の肘を引いてく。
主藤「どうしたんですか。そっちの集落も全
 く根回しできてないんですよ」
久美子「ボケて特養に入ってるけど神社と関
 りのある人をこちらがご存知だそうです」

○ 雨戸の締め切られた家の門の前
主藤「どうしてこのお宅に聞きにいったんで
 すか?川下の別の集落なのに」
久美子「この表札の下にある櫛の金は金色じ
 ゃなくて、花葉(はなば)色といって幕末
 から明治に流行ったの。この集落の人たち
 はどこも古いんでしょうけど、この家は確
 実に幕末ごろから続いているんですよ」
主藤「何ですかその『はなば』色って?」
久美子「山吹色より少し黄色がかった色です」
主藤「金色にしか見えませんよ」
久美子「私は少しだけ色に詳しいんです」
主藤「あなたの専門はヨーロッパ絵画でしょ」
久美子「そうです。私のテーマはヨーロッパ
 新古典主義の色材の分類と時代区分です」
主藤「でも、これは、日本の色でしょう」
  久美子が息をついて
久美子「そうまでおっしゃるのなら、判りま
 した。あなたの家もしくはあなたは、歌舞
 伎のファンか、宗家とお知り合いや御ひい
 き筋なんじゃあないですか」
主藤「どうしてわかるんですか?」
久美子「宗家の色は柿色が有名ですが、舛花
 (ますはな)色も五代目が好んだ色として
 有名で、それをあんな大きな風呂敷で持ち
 歩く人は今時いませんよ。あの色は普通に
 売ってる色じゃないんです」
言葉の無い主藤。
久美子「日本の色はもちろんですが、それま
 での歴代の色を総攬してないと次の時代の
 色の同定、識別はできないんですよ」
主藤M「世界の色を全部覚えてるってこと?」
×   ×   ×
櫛をはがしている主藤と久美子。
主藤「この櫛は黒地なので他のどんな黄色が
 あっても同じ金色にしか見えませんよ」
久美子「それは明度対比といって対比効果の
 一種です。私には色の対比を抜きに個別に
 色を見る習慣があるようなんです」
主藤「絶対音感じゃなくて絶対色覚ですか?」
久美子「そんな言葉はありませんし、そんな
 能力を持ってる人はいないでしょう」
主藤「なんとか心理学のファイ現象なんか実
 際そこにない色さえも認識させることがで
 きると豪語してるのに、あなたはそんなこ
 とお構いなしってことですか」
久美子「なんですかファイ現象って?」
主藤「ドイツの心理学者のマックスヴェルト
 ハイマーがハンカチに刺繍されたイニシャ
 ル(MW)の重ね文字の形を見て、いつも
 菱形が3個あるようにしか見えないことか
 ら発想を得たといわれる、眼の錯覚のこと
 です。ちょっと目を閉じててください」
主藤はアスファルトに『MW』と、丁寧に手掌で長さを測った『T』の字を書く。
主藤「この縦と横の線はどちらが長いですか」
久美子「縦でしょう」
主藤「同じに書いたんですよ」
主藤「色にも同じような錯覚があるはずなの
 にあなたはそんなことお構いなしですか?」 
久美子「だから違うんです。私は色相や明度、
 彩度の対比や、同化、錯覚はもちろん、配色による情感だって感じます。ただ、その時
 に個々の色そのものの認識をしてから、色
 の組み合わせをする習慣がある様なんです」
主藤「要するにぼんやりこんな組み合わせと
 いうより、何色と、何色の組み合わせでこ
 んな感じというように思ってる訳ですか」
久美子「でも私は、その色を見分けることな
 んかよりも、その由来、いつどのような人
 たちによって誕生して使われたかなどを知
 りたいし、忘れ去られた昔の好まれた色や
 配色、その成立の習慣や背景を、探ってみ
 たいだけなんです。さあ、行きましょ。今
 更行くとこが一軒増えたっていいでしょう」
主藤「疲れているようですがいいんですか?」
久美子「はい」

○ 同じ門の前(一年前)
櫛を打ち付ける老婦人の愛祢(88)。

○ 神社(65年前大晦日)
黒と金の櫛を握り締める愛祢(29)と村人たちと愛祢の父。
父親「ボッコクレの家だ。養魚池は残しても
 神社も潰すしかないだろ。爺さんもそのつ
 もりで跡取りを探さなかったんだろう」
  潰され廃材となり大晦日のお札と一緒に燃え上がる神社が養魚池に映る。
村人「爺さん大山女の事何も言わなかったな」
愛祢「(小声)受精12分後に24度で24分って」
父親「?」
愛祢M「由利の家は滅びてなくなるけど爺ち
 ゃんの作った大ヤマメは残るよね」

○ 郊外の療養所(正月)
史蔵(29)が個室に入れられ鍵を掛けられ、正月の雑煮の病院食を食べている。

○ 村の愛祢の実家(同正月)
雪のうっすらと積もった晴れた元日の朝。機織をしている愛祢。母親が見かねて
母親「綺麗にしてお年賀のお相手手伝ったら」
愛祢「(聞こえない小声で)アラヤマの…」
母親「史蔵さんも爺さんも亡くなり由利の家
 は跡形もないのよ。もういいでしょ機織は」
  玄関先で母親が頭を下げる。
母親「元旦というのに。芸者がしているよう
 な髪を、粋がって崩さんで。とても正月に
 お目に掛れるようななりじゃございません」
鹿納「いいんですよ」
年賀で訪問着の鹿納(29)が穏やかに微笑む。機織の部屋から遠眼で見てる愛祢。
   ×   ×   ×
夜明け徹夜で機を織り上げてしまう愛祢。
  櫛を抜いて夜会巻を解くと名残惜しそうに髪をすき、織りあがった白い機で包む。

○ 愛弥の実家の川向かいのアスファルト道  
(1996年らい予防法改正後)
  神社の横の川がコンクリートの養魚場になっている。雨戸を閉め切った愛祢の実家。サングラスの史蔵(76)が、通りがかりの郵便配達に愛祢の実家を指さして
史蔵「あそこの家は?」
郵便配達の男「去年死に絶えたよ」

○ 愛弥の実家の隣の家玄関先(同日)
サングラスの史蔵(76)と老婆C
史蔵「すみません、横の家は?」
老婆C「あんた史蔵さんじゃないのかい?ボ
 ッコクレで死んだって聞いてたけれど」
顔をそむけ逃げる史蔵。声を荒げる老婆。
老婆C「おーい、ボッコクレだよー。あんた
 らのせいでこの村の名前だけで縁遠いんだ」

○ 愛祢の実家 門の櫛の前(1年前)
顔を伏せて養魚場の餌やりをしている史蔵(88)。櫛に見入って安心した様子。
史蔵「鹿納の家にい(嫁)ったのか」

○ 雨戸の締め切られた家の門の前(現在)
金黒の櫛を剥す久美子。電話を切る主藤。
主藤「じゃあ、これから街に行きますよ」
久美子のM「えーこれからー。思わずかっこ
 つけていいって言っちゃったじゃない」

○ 養魚場。雨戸の閉められた門の前(現在)
軽トラックの史蔵(89)。携帯がなる。
携帯(特養の職員)「急きょ昼の食介のボラ
 ンティアを今日からお願いしたいのですが」
史蔵「何時からでしょうか?」
職員「一時間後です。私が来客応対なので」

○ 特別養護老人ホーム(同日、昼下がり)
いろいろな老人の声の賑やかなホール。久美子、と主藤。職員が来て、
職員「鹿納さんと教育長からお話の学者さん?
 お二人だけ?(小声)食介頼んじゃったよ」
車椅子に乗った老婆・愛祢(89)を指す。
職員「あの方は言葉はおろか、誰の顔かもわ
 かりませんよ」

○ 特別養護老人ホーム受付(同時刻)
  サングラスの史蔵(89)が受付で賞状のようなものを出して話している。
事務員「初日なので介護福祉士の登録証のコ
 ピーをとらせていただきます」
 『福祉士の登録証(今年の三月の日付)』

○ 特別養護老人ホーム(現在)
愛祢他、数人の老人。食事介助をしているサングラスの老人のボランティア。久美子と主藤が話しかける。
主藤「今日は。お話聞かせてください」
久美子「こんにちは、おばあちゃん」
ぼんやり反応がない
主藤「アラヤマの神社のことご存知ですか?」
半分に閉じた目が少しあいたかのよう。
主藤「由利史蔵さんのことご存知ですか」
ボランティアの老人が食事を食べないので介助を諦めたのか立ち上がる。
主藤「アラヤマの具和さんのこと聞きたくて」
具和の名でスイッチが入ったようにテーブルをスプーンでたたきだす愛祢。
 トン、ト、トン。トン、ト、トン(音)。
あわてて主藤がビデオを構えるのと同時に愛祢が祝詞をあげるように歌いだした。
老母「アラヤマの、みかみのところ、このこ
 のうえにこのこのまでも、…シゾウさん…」
  目に光が戻りかける愛祢。
車椅子から崩れ落ち、髪を振り乱し史蔵の足をめくり上げ傷を確かめる愛祢。
史蔵「わかるのか?俺のことが。愛祢さん」
表情がなくなる愛祢、もとの痴呆に戻る。
久美子「あなたが史蔵さんですか?」
史蔵「あんたたちは何でこのもう伝わってな
 いはずの祝詞の事を知っているんですか?」
久美子「アラヤマ神社のことを知ろうと愛祢
 さんを訪ねて来ただけだったんです」
主藤「あなたは亡くなったって聞きました」
史蔵「中国から帰った翌日、二日市の救済所
 で伝染病として隔離され、以来死んだこと
 にされてしまったんですが、私は引揚た日
 に真っ先に帰って爺さんに会ったんです」

○ 神社(60年前、昭和25年)
引き揚げてきたばかりの史蔵(29)と病床の具和(89)
史蔵「じいさん。あんたがうらやましい。北
 平(北京)では宝を持って逃げ出した伝説
 が50年以上たった今でも残っている。あん
 たの名は永遠に伝説の中に残るんだ」
具和「そんな伝説の中に生きるよりこうして
 この世の養魚場で大山女を造って小作人と
 して暮らすほうが私にはよっぽど望ましい」
史蔵「奪った宝はどうしたんだ?」
具和「戦争が終わって5年間もおまえは何を
 していた。蒋介石の北平で。隔離病棟にも
 行ったのか?いいか、宝を探すな。龍の唾
 に触るものは体が溶けて見えなくなるんだ」
史蔵「じいさん、あんただってこの年まで長
 生きできてしかもちゃんと見えているよ」
具和「私が宝を自由にしたからか私は消えな
 かった。その代わりか家族が消えていった。
 自分が溶けてなくなる方がよっぽど楽だ。
 今度は帰ってきたと思ったお前もだ。これ
 が龍の唾の力なのだ。お前もあの伝染病に
 感染している。すぐに治療するんだ」
史蔵「宝は?櫛しか見たことがなかったぞ」
具和「清から持ち帰った翌年、講和条約の折、
 来日された李全権閣下にお返したが5日後、
 閣下は日本人の暴漢に顔面を銃で撃たれた。
 櫛は閣下が塗り直させ看病に呼ばれた妻へ
 の礼にと、下さったが、黒龍の唾は庭石に撒いて紛れさせてしまってそれっきり判らん。
 いいか、宝を探すな。龍の唾に触るもの探
 す者は体が見えなくなるんだ」
谷川で山女の餌やりをしている愛祢の上を足音もなく通って街へ降りていく史蔵。それとは気付かず玄関に入っていく愛祢。
愛祢「おるとー」
 
○ (もどって)特別養護老人ホーム(現在)
史蔵「じいさんは私の顔を見るなり早く手当
 てを受けろといいました。私も治るまで愛
 祢にも会わないつもりで翌日救済所に行く
 と、私を待って探している愛祢に会ってし
 まいました。この櫛を差した前よりひと際
 美しい愛祢を見て私は思わずその場を逃げ
 去りました。そしてそのまま予防法が変わ
 る1996年まで45年間出られなかったのです」
史蔵のM「宝を探したというだけで、まさに
 私の体は世間から見えなくなってたわけか」
久美子のM「何よこれ?実習と関係あんの?」
史蔵「出られた時に愛祢の実家は無く、私は
 死んだとされてました。養魚所の餌やりと
 して戻って毎日家を見ていると、去年、名
 前を彫った櫛が打ち付けてあるのに気付き
 ました。鹿納の名でここは簡単に探せまし
 たが、介護ボランティアの登録をして半年、
 今日初めて認知症の愛祢に会えたのです」
  髪を振り乱した愛祢を車椅子に戻す史蔵。
史蔵「一瞬私の名を判ってくれて、存在を認
 めてくれたのかと思ったが錯覚だったのか」
久美子が櫛を出して
久美子「髪をすいてあげてもいいですか」
職員「こちらの介護福祉士の方なら」
史蔵がすいてまとめると、老婆が自分でアップにする。櫛を渡すと巧く髪に差す。
久美子M「おばあちゃんの夜会巻き格好いい」
史蔵「花月巻きじゃないか」
  白い腕でひっくり返して押込んでとめる。
史蔵「これは花月巻きといって祖母が愛祢に
 教えていつも娘のときにしていたんです」
愛祢「アキヤマの…」
再び目が普通に戻った愛祢が祝詞を歌う。
愛祢「アキヤマの、みかみさまいる、いわい
 わの…史蔵さん。帰ってきたのね」
久美子のM「ちょっとお、本当にアキヤマよ」
ほんの30秒ほどで終わってしまう。
  歌い終わると櫛に手をやり、抜くと、髪がほどけて、史蔵に櫛を手渡す愛祢。
史蔵「やっとこの世に戻ってこれたようだ」
愛祢「この為に私は祝詞を伝えられたのね。
 最後にあなたに会ってこの世に戻すために」
表情が消えていく愛祢の手を握る史蔵。
久美子「主藤さんアキヤマですよ。ありまし
 たよここに、終末点が」
主藤「ウン、ここに語幹があった。あの神社
 の字名はアラヤマだったが神さま自体はア
 キヤマの御神(ミカミ)だったんでしょう」
主藤がビデオのスイッチを切る音。
史蔵「い、今の瞬間が残ってるんですか?」
久美子「ええ」
主藤「史蔵さんはこの祝詞をご存知ですか」
史蔵「聞いたことはあったが覚えるなといわ
 れていて、二番があるのも知らなかった」
久美子「なぜ愛祢さんに伝わったんでしょう」
史蔵「爺さんが私は二度とこの世に戻れない
 と思っていたから愛祢に伝えたんでしょう」
史蔵のM「爺、唾の呪を解いてくれるのは祝
 詞以外にないと知ってたみたいじゃねえか」
老人たちの勝手な声が響きだしてくる。
主藤「史蔵さんでさえ伝えられなかった祝詞」
老人たちの声にまぎれながら
主藤「おそらく、今この世に生きている中で
 は愛祢さん以外に誰も覚えている人もなく
 二度と歌われることもないこの祝詞。まさ
 に今ここがライブの終末点だったんだ」
静かに言い切るだけで表情を変えない主藤の横顔をみつめる久美子。
久美子のM「ちょっと気色悪いわよ。朝の霧
 に続いてまた…。この人平然としてるけど
 いつもこんなこと体験してるのかしら」

○ 丘の上、林の中の遺跡館(同日午後)
丘の上の資料館には人っ子一人いない。甕棺(かめ型のひつぎ)の墓あと資料館の建物から出てくる主藤と久美子。
主藤「ここは朝の公園に一番近い丘です」
何気に受付のパンフレットを手に取る。

○ パンフレットインサート
『この墓に葬られた成人の平均身長は162㎝で
 あり戦前の昭和を含め日本のあらゆる時代
 でもこの平均身長を上回った時代はない』
  久美子がパンフレットの身長の絵を差し
久美子「これって、本当ですか?」
主藤「身長の事ですか?ここの弥生人は骨格
 が違うんだから正に渡来人との混血でしょ」
  風に木々の音が波のように聞こえてくる。
主藤「あそこが朝の公園でこのあたりまで入
 り江で海だったようです。君はすぐこの下
 に打ち寄せる波音やそこから半島へとつな
 がっている海が想像できますか?」
木々の音で波が目に浮かぶとともに、ここから大きな矢印が天に登り日本を覆っていくのが頭に浮かんでしまい首を振る。
久美子のM「えー矢印まで見えちゃったじゃ
 ない。きっと1400年前の霧と、最後に偶然聞
 いた語幹のせいよね」

○ フラッシュバック
銀座の地下画廊、タイムトンネルのような高速道路、鵜飼、水城の霧、最後の語幹、波打ち際から日本を覆う矢印。

久美子のM「昨日今日でいろいろなものを見
 すぎたせいよ。それにしてもこの人顔色一
 つ変えないけどいつもこんなの見てるの」

○ 海峡の橋を走る車中(現在明るい夕暮)
主藤と久美子。
久美子「今夜はどこに泊まるんですか?」
主藤「講和条約のおこなわれた海峡の街です」

○カットバックで・海峡の橋を走る車中(同時刻)
別の車。史蔵が一人運転している。

○カットバックで・神社(60年前、昭和25年)
史蔵(29)と病床の具和(89)
史蔵「じいさん。あんたがうらやましい。あ
 んたの名はこうして永遠に伝説の中に残る
 んだ。奪った宝はどうしたんだ?」
具和「黒龍の唾は不吉だと全権が庭石に撒い
 て紛れさせてしまってそれっきり判らん。
 いいか、宝を探すな。龍の唾に触るもの探
 すものは体が溶けて見えなくなるんだ」

○カットバックで・海峡の橋の上(現在)
史蔵が櫛を握って一人運転している。
史蔵「この櫛が呪いをといて60年後にこの世
 に戻れるとは思ってもみなかった。89歳の
 私に思い残すことはない。その石ころを潰
 すことが私で終わってしまうだろう由利の
 家の本当の終末だ」

○ (もどって)車の中
主藤「その海峡の街です」
久美子のM「よしっ。予定どーりー」
主藤「いい加減ファイル読んどいてください」
久美子「そこは読みましたよ。うっいけない」
久美子のM「やベーバレバレじゃん」

○カットバックで・特養老人ホーム(数時間前)
史蔵「じいさんは私の顔を見るなり早く手当
 てを受けろといいました。私もそのつもり
 で翌日救済所に行くとそのまま予防法が変
 わる1996年まで45年間出られなかったわけで
 す。私は二日市の救済所に行く前夜、祖父のとめるのも聞かず愛祢に会うより、北京で
 伝説となっていた祖父が持ち帰ったという
 龍の唾と呼ばれた宝を探しに行ったんです」

○ (もどって)車の中 海峡の橋の上
久美子と主藤。
久美子「龍の唾ってどんな宝なんでしょう」
主藤「清なら黄龍旗、四神の龍なら青い龍」
久美子「黄龍旗も青龍も龍の色は緑ですよ」

○カットバック・料亭の庭(116年前、休戦締結後)
日本全権が夜の庭を見て怒りに震えてる。
日本全権「北京突入は目前だというのに」
  庭を挟んで、具和と石を持ってる李全権。
具和「李全権ご自身が撃たれるとは、不吉な」
李全権「いや不吉でも何でもない。結局北京
 は守られた。もうこの石は誰の物でもない」庭に向かって投げ、庭石に紛れ判らない。

○カットバックで・(60年前、昭和25年)
病床の具和(89)
具和「黒龍の唾は不吉だと庭石に撒いて紛れ
 させてしまってそれっきり判らん。いいか、
 宝を探すな。龍の唾に触るもの探すものは
 体が溶けて見えなくなるんだ」

○ (もどって)料亭の駐車場
車が停まる。踏み出し黒い敷石を踏む足。史蔵だと思う足はサンダルの久美子。
久美子のM「龍の唾ってどんな宝なんでしょ
 う。一体どこにあるのかしら?」



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愛祢が櫛を取って持っていたことを具和が知らず、そして櫛を持っていると災いが起こると具和は思っている。そのために葬った。それを掘り出した愛祢。愛祢は災いが起こるとは知らず。
結局、妻の杏姫が持ち出セといった櫛は龍の呪いをとくものだった





久美子「北京の」
黒龍の唾はみつからなかった」
色形も不明
青龍の唾
北京北京毛藍(beijing blue)がありますよ
青龍の青は緑だよ。
よだれは白だろう
灰色、琥珀色、黒色



久美子「どうして具和さんは愛祢さんに伝えたんでしょう」
史蔵「じいさんは私が二度とこの世に出られないと知っていたから愛祢伝えたんでしょうか。」


私と両親をらいにしたその宝は


  主藤は団地のひとつを指して
主藤「海はおそらくここから2キロぐらい向こうのあたりだったようです」
久美子のM「ここからってこんな市営団地に囲まれたとこからじゃ海も何も見えるわけ無いじゃない」






レポート書いてる 矢印を一センチ伸ばしただけで終わり
史蔵さんのことは書けませんよね
お庭はどうします

宿はホテル 橋が見える

電話して
環の間あいててOKと




史蔵「その宝の石があるのかあればじいさんは本当のことを言っていたのか」

○ 料亭の玄関先の庭(60年前、同夜)
敷石がびっしりと敷き詰められている。
月明かりの中一つ一つ探し続ける史蔵。
史蔵「由利の家を滅ぼそうとしている唾はどれだ。どうせ滅びるんだから手にして死にたい」

○ 二日市駅 汽車のデッキ(同朝)
二日市の支援所に向かう史蔵(29)


久美子のM「じゃあ私の血液にもここから始まった人々のDNAが流れ続けているって?」


○ 神社の鳥居の横の家。(1950年夏夕暮れ)
由利具和(89)衰弱して床に伏せている
が眼光は確か。枕元に手をつけていない茶碗。人が出て行った気配。入れ替わりに食事を持ってきた同じ集落の娘、愛祢(29)が暗い玄関から声を掛ける。
愛祢「じいちゃん、おるとー」
愛祢は手をつけてない茶碗を見るが、なにも言わず新しい食事と取り替え、急須からお茶を入れ仏壇にも供える。
具和「愛祢、ありがとう。だが、もうここには来ちゃいかん」
愛祢「…」
具和「いいか、史蔵の引き上げを待っていても無駄だ」
愛祢「えっ?」
具和「史蔵は戦争じゃなくて、伝染病で死ん
 でいる。私が50年前の清との戦争で北京か
 ら持ち帰ってあれの両親も兄姉も死んでい
 る。史蔵だけには移らんようにしてたつも
 りだったが。由利の家はこの私で終わりだ」
愛祢「じいちゃん」
具和「愛祢、史蔵のことは忘れて、お前は嫁
に行け。おまえの器量で良縁は望みのままだろう」
歌い始める具和。
具和「アラヤマの…」
愛祢「この祝詞、節は何度も聞いてるけどこんなにはっきりとした歌詞があるのを聞いたことは無かったよ。じいちゃん…」

○ この村の愛祢の家(同夜)
機織をしている愛祢。
母親「いつまで機織続けるつもりなの?」
愛祢「…黙々と機織」
母親「史蔵さんが亡くなってたんだっていうじゃないの」

○ 夏祭りの神社の祠の中(夏祭りの夜)
幼いころの史蔵(5)と(5)愛祢。お祭りで開け放たれた神社の御神体に近づく二人。神殿の神棚にある獣の頭蓋骨。恐る恐る背伸びして二人が覗く。頭蓋骨の顎の下にある櫛を見つけ、史蔵がとろうと頭蓋骨に触ろうとするとバランスを崩し、棚が壊れ頭蓋骨が落ちる。牙で傷つく史蔵の腿。お祭りのざわめきの中、子供の泣き声にかけつける具和。
具和「今でもこれに係わっちゃならんのか」
 
○ 神社の祠(祭りの数日後)
社の横を流れる大きなヤマメのいる川では傷が癒えた史蔵と愛祢が遊ぶ。半ズボンの史蔵の腿に傷が生々しい。
社の中で、虎の頭蓋骨を叩き割る具和。
具和「この神社はもう終わりでよかろ」
社の裏に櫛と一緒に埋めている具和。
 いつの間にか河から顔を出しのぞいて見ている二人。
  
○ 二日市温泉(引き上げ支援施設)翌日
走ってきて引き揚げ支援会のタスキを掛け髪の毛を上げて櫛を押し込む。引揚者の足を洗っている愛祢。
愛祢「ご苦労だったでしょう、もしや、由利史蔵さんという方をご存じないですか?」
うつむいたまま足を洗う愛祢の櫛に気づいて、帽子を深くかぶった男は裸足で逃げる。愛祢も足の傷に気づく
愛祢「史蔵さん」
人ごみに紛れていない男。
諦める愛祢。物陰で史蔵。
史蔵「おれは伝染病で死んだんだ。愛祢はいい男を見つけて結婚するんだよ」
白衣の男二人に後ろから肩をたたかれ声を掛けられ驚いて振り向く史蔵。

○ 郊外の療養所(夏)
個室に入れられ鍵を掛けられベッドに横たわる史蔵。

○ 神社(大晦日、雪がちらつく65年前)
村人たちと愛祢(29)と愛祢の父。
  潰され廃材となり大晦日のお札と一緒に燃え上がる神社が養魚池に映る。


案内の職員が止めようとスプーンをよこせというように手を広げると髪を振り乱して怒り右手でスプーンを投げる。久美子が持っているビデオカメラの部品に当って取れて落ちる。
職員「ごめんなさい」
あわてて捕ろうとしてテーブルの上の黒い碁石がスイッチの上に散らばって部品がどれかわからなくなる。
そこここで勝手な声を上げている老婆たちの声に混じってスプーンをたたき続けると次第に目つきがはっきりとしてくる愛祢。主藤があわててレンズフードのシャッターを開けようとするが取れた部品がスイッチで回せないので開かない。
主藤「こりゃあだめだ」
  しゃがんで探す主藤と職員の鼻先に久美子が無数の黒い石の中からスイッチを拾い上げて差し出す。
主藤「よしっ」

案内の職員が止めようとスプーンをよこせというように手を広げると髪を振り乱して怒り右手でスプーンを投げる。久美子が持っているビデオカメラの部品に当って取れて落ちる。
職員「ごめんなさい」
あわてて捕ろうとしてテーブルの上の黒い碁石がスイッチの上に散らばって部品がどれかわからなくなる。
そこここで勝手な声を上げている老婆たちの声に混じってスプーンをたたき続けると次第に目つきがはっきりとしてくる愛祢。主藤があわててレンズフードのシャッターを開けようとするが取れた部品がスイッチで回せないので開かない。
主藤「こりゃあだめだ」
  しゃがんで探す主藤と職員の鼻先に久美子が無数の黒い石の中からスイッチを拾い上げて差し出す。
主藤「よしっ」

もしその石を見つけるのが私で終わってしまうだろう由利一族の結末の理由だと思ったのです。(私が感染したのは自分から北京の病棟に探しに行ったからなんです)」


久美子のM「常識的に考えたらそうだよね」
久美子のM「確かに終末点にはびっくりしたけど一日の最後がわざわざ朝の公園の近くまで戻って、人骨とお墓?」
久美子「しかもまた誰もいないじゃない」
 
夕暮れですっきりした感じだがお墓の横で気持ち悪いはずだし、自分はヨーロッパ絵画なのに。小高いこの丘の木々の間から広がる平野を見ると

なってたんです愛祢に二日市の救済所で偶然遭う結局
最後になった前日に、私は帰ってきてじいさんに会ったんです



じゃあ私の血液にもここから始まった人々のDNAが流れ続けているって

P55
なんで愛祢サンに伝わったんでしょうか
読書目線のこと なんで愛祢にお簿r綱といった祝詞が伝わったのか?

ちがう
じじいが史蔵にかけられた竜ののろいをとくのが愛祢の祝詞だと知っていたのか?


★★★★★★★愛祢にいると認められるのが存在の証

117年前
条約後 北京に突入できないで悔しがる陸奥宗光

具和「やはり不吉でした。撃たれるとは」
李「いやこれぐらいですんで北京は守られた。やはり守りだ。この石は誰のものでもない。庭に向かって投げる。石に紛れ本当にわからない。何重もの奥に入り込む。


。北京毛藍とい
 う青色(beijing blue)がありますけど」
主藤「黒龍の唾から生まれた姫がいますが


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   ドーリア人の侵入               

          レポート① 黒龍の唾(前編)

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